『それからのパリ』という本

雨宮塔子さんという元テレビアナウンサーだった人がパリに渡って、日本人パティシエと結婚して書かれた本だ。二児の母でもあるらしい。

『金曜日のパリ』という最初の本も読んだが、その時は感じなかった(またはわずかだった)違和感がこの本を読み終えて大きくなってしまった。

たとえば、この方は少しパリの男性に対して過剰に警戒心を抱いていると感じた。

カフェで日本語の文章に興味を持ち、話しかけてきた男性に対してー
確かに突然目の前の席に座られたら面食らうだろうが、カフェ(特にフランスのカフェ)では見知らぬ人と会話をすることはそれほど珍しくない。そもそもそれがカフェの面白さでもあるのだし、そういったコミュニケーションが煩わしいのならせめてスターバックスなどのアメリカ系のドライなカフェに行くべきだと思う。
その男性が10分経っても席を立たなかったとして”テキ”呼ばわりし、
あげくの果てに一ヶ月後に偶然同じカフェで再会したとき、あろうことか”私に構わないで”と相手がショックで二の句が継げなくなってしまう言葉を投げつける。

デリカシーについて云々された方と同じ人とはとても思えなかった。


また、バスの中での出来事についてもー

知的障碍のある青年が、バスの中で誰彼構わず"Bonne annee"(あけましておめでとう)と口にしていた。

みな軽くうなずくか、同じ言葉を返していた。

あるフランス人の婦人は"Vous aussi"(あなたも)と返答した。

そこに三人の日本人観光客の女性たちが乗り込んできた。

青年は彼女たちにも"Bonne annee"と言った。

が、彼女たちは何も言わずに通りすぎた。

著者は青年の一日を台無しにしてしまったと彼女たちをなじる。

だが、想像してみてほしい。

あなたはただの観光客でフランス語も不自由だ。

そこに突然何の前触れもなく言葉をかけられて、その意味を理解できるだろうか。

"Bonjour"でも“Ca va?"でもなく"Bonne annee"である。

少なくとも私がこっちに来たばかりの頃は無理だった。

表面的な事象のみを捉えて誰かを非難する前にもう少し想像力を使えればもっと違った見方もできるのではと感じた。

あまり後味は良くなかったけれど、いろいろと考えさせられた一冊だった。

それからのパリ (祥伝社黄金文庫)

それからのパリ (祥伝社黄金文庫)